|
【第3講】 - 逆境にめげるな、 |
ネバーギブアップ! - |
株式会社オフィス2020新社 主幹 緒方知行 |
Aというカリスマ的経営指導家がわが国の流通・商業界にいる。高度成長時代のビッグストア革命を担った企業家たちとそれが経営するスーパーチェーン・専門店チェーン・外食チェーンのほとんどがこの先生に師事し、大きな影響を受けている。この先生(筆者にとっても恩師であるが)高齢に至って肺ガンを患った。しかし、まさに奇蹟といってもいい、地獄からの生還を果たした。見事に病を克服したのである。
このA先生の生還を祝う会が名だたる流通・外食のトップたちの肝いりであるホテルに1000人近い人を集めて行われた。この席上で、先生の治療に当たった医師団の団長(医学界を代表するような人物)が挨拶に立ってこういった。「病気を治すのは医者ではない。患者自身である。医者はそれを手助けするだけだ。この患者が生還できたのも、本人に治したい、決して病気などに負けてなるものかという強い意志、人一倍強いネバーギブアップの気力があったことが、この奇蹟につながっている」と。
|
そのあとA先生自らが「私はあと25年は生きて、この日本に欧米に見られるような“流通革命”が成就することに力を注ぎたい。それまでは死ぬわけにはいかない」と自らの志を語ったものだが、これが本人のすさまじいまでの生きることへの執着を生み、そして地獄からの生還を可能にしたのだと、列席した人たちの誰にも理解できた。
このようなどんな状況下においても決して絶望しないというネバーギブアップの精神は、商いや経営の世界においても当てはまる。厳しい不況下、そして激しい競争のもとにおいてよく見られることは、商業者自身の気力喪失である。「不況で一番いけないことは、商人が不景気面することである」――これは、戦後商業革新の指導家倉本長治商業界主幹(故人)の言であるが、商人が『どうせ何も救いようがない。「絶望は愚か者の代名詞」といわれ、「知的楽観――賢者は決して絶望することがない」』とされているが、決してあきらめずネバーギブアップの精神で、一生懸命に生きようとすればどこかに必ず活路はあるものだ。
大相撲の世界では「心・気(技ではない)・体」と言われる。気(気力・士気・意気・ヤル気・気持ち等々)が衰え、なくなったら引退である。商売の世界も最期に自らを支えるものは「気」である。“気”の抜けたビールに価値がないのと同様、“気”の抜けた商人は、もはや商人ではない。 |