4.商店街のマーケティング |
(1)商店街マーケティングの方向 |
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① 商店街マーケティングの困難性 |
商店街のマーケティングという場合、個別のメーカーや小売店が実施するマーケティングやマーチャンダイジングとの対比で語られることが多くあります。マーケティングが本来的には個別企業の活動だとすれば、個別企業の集合体である商店街がマーケティングを行うことについて「違和感」が伴うのも無理はありません。この違和感は、商店街の組合活動を実践してきた商業者の側により強いように思われます。その理由は、自然発生的に形成された商店街で、全体として業種ミックスを計画や調整したり、個店で販売する商品の品揃え、価格、販売促進政策などを商店街として統一することがきわめて困難だという「現状」認識にあります。商店街では、個店でさえもマーケティングが本格的に展開されているのは稀であるのに、その集合体である商店街が「一つの明確なコンセプト」をもってマーケティング活動を展開できるのかという疑問が生じます。 |
② 商店街コンセプトの明確化 |
競争の激化によって、個店が品揃え、価格、接客などで「個性」をアピールするのと同じように、商店街でもコンセプトをより明確にし、その存在性を訴える必要があります。ショッピングセンターのような商業集積の乱立と自動車での買物によって、消費者の選択できる商業集積は増加し、それだけ競争は激化することになります。このため、よほど特徴を持つ商店街でなければ消費者から選択されなくなることが予想されます。
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③ 商店街マーケティングの手法 |
店街で通常行われているマーケティングとして次の2つの典型的な手法があります。
- 「撒き餌」型マーケティング
従来の商店街のマーケティングのなかで最も一般的な手法は、イベントを通じて集客力を高めることでした。いわば「撒き餌」と同じで、商店街としてはともかく人通りや集客力を増やすことが仕事であり、それを個々の店舗の売り上げに結びつけるのはまさに個々の店舗の商売人の「腕の見せ所」でした。
- 「顧客の囲い込み」型マーケティング
効果が必ずしもはっきりしない「撒き餌」に対して、顧客が購入した金額に応じてスタンプやカードのポイントを付与することによって、来街動機を高め、「顧客の囲い込み」をはかろうとしたのが、スタンプやポイントカードの発行事業です。
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④ 商店街コンセプトの明確化への抵抗 |
商店街がコンセプトを明確に絞り込めない理由の一つに、コンセプトの明確化が顧客層の絞り込みであるとすれば、多種・多様な業種、業態から構成される商店街では、個店側から「抵抗」が生じます。なぜならば、「広域」「地域」「近隣」といった商店街のどの類型に分類されるかによって異なるものの、特定の顧客層にターゲットを絞り込むことは、他の顧客層を「捨てる」ことであり、それだけ来街者数が減少し、売上の低下につながると考えられているからに他なりません。
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⑤ マーケティングのためのコンセプトへの誘導 |
商店街の強みは、周辺の都市機能や地域文化と「溶け合って」いることであり、そうした強みや顧客層などの地域特性を踏まえて、マーケティングの展開に生かしていく必要があります。しかし、「白地に青写真を描ける」場合と違って、商店街の活性化や事業展開は、一種の「リフォーム」的要素を持っています。業種構成ひとつをとっても、既存の資源と新規参入の活力を活かしながら、全体として「まとまり」をもたせる必要があるからです。一つのコンセプトを設定すれば、業種構成、テナントの設定を一気にできるショッピングセンターとは違い、業種ミックスの調整を基本的に「競争」に任せるしかない商店街では、一定のコンセプトなり方向へ「誘導」していく方策が模索されなければなりません。
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⑥商店街の魅力ある店揃え |
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商店街のコンセプトを具現化し、実行していくのは、商店街を構成する個々の店舗であることはいうまでもありません。そのため、その商店街にどのような商店が集積しているのかの店舗ミックス(いわゆる「店揃え」)が、商店街マーケティングの実行段階できわめて重要な問題となります。
店揃えの展開の方法として次の3つのステップが考えられます。
第1ステップ まず自らのマーケティング・コンセプトに照らして、現状の店舗構成を見直し、不足ないし欠けている業種・業態が何かを摘出
第2ステップ 不足ないし欠けている業種・業態を補うために、外部から魅力ある個店や商業施設を誘致
第3ステップ 業績不振の店舗やあらたなビジネス・チャンスを求める店舗に、マーケティング・コンセプトに沿った業種・業態への転換を誘導
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⑦消費者や地域への働きかけ |
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- 商店街の商品・サービス力の強化
商店街の店揃えの問題と表裏一体の関係にあるのが、それぞれの店舗の商品・サービス力です。これは第一義的には、いかに魅力的な商品・サービスを提供するか、という個店の経営努力の領域に属する問題であることはいうまでもありません。
- イベント・販売促進等の集客事業
商店街のマーケティングとしてまっさきに頭に浮かび、かつ現実に実施されているのが、このイベントや販売促進です。
- 地域との連携によるまちづくり
商店街マーケティングは、当然、商店街と消費者だけが存在する閉鎖的な市場で行われるわけではありません。地域社会との関係の中でのまちづくりという問題の重要性が浮かび上がってきます。
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(2)21世紀に向けた商店街のマーケティングのあり方 |
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①ショッピングセンターのマーケティングに学ぶべき点 |
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商業集積が全体として統一的にマーケティングを行うのは、欧米では計画的につくられたショッピングセンターやモールにおいてです。こうしたショッピングセンターは、ショッピングセンターを運営する企業が統一的管理(テナントの選定・入れ替え、市場調査、販売促進活動など)を行います。ショッピングセンター以外の商業集積において、その集積全体としてマーケティングが展開されている事例は非常に稀だといえます。近年は、中心市街地の活性化策として、日本のTMO機関のような組織が、「街」の活性化策の一環として商店街マーケティングに関わるケースも一部でみられるようになってきています。しかし、日本のように商店街が組織を持って組織としてマーケティングを行うケースは欧米にはほとんどみられません。
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②21世紀の商店街マーケティングのあり方を示すキーワード |
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20世紀の商店街の事業の反省と、商店街のライバルである近隣商業集積とくにショッピングセンターのマーケティングを参考にして、21世紀の商店街マーケティングのあり方を考える上で、ポイントとなる5つのキーワードを示します。
・マーケティング計画による体系的なマーケティング展開
・ライバルの商業集積・施設との差別化
・地域の特性を活かす
・ IT(情報技術)の活用
・商店街マーケティングの効率的な展開 |
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5.商店街・個店のマーケティング推進策 |
(1)個店のマーケティング推進策 |
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①個店マーケティングの展開 |
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小売店のマーケティング活動とは、まず、買い手と売り手が集まっている場所(マーケット)を設定することから始まります。そこで、対象となる顧客に、良い商品を、適正な価格で、適正な数量で、適正な時期に、効率的に流通させ、効果的な販売促進活動を展開していくことを示します。 |
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②個店マーケティングのポイント |
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個店のマーケティング活動を展開していくうえでの方策について、以下の5点がポイントとなります。
- 明確な販売計画の樹立
販売計画を立てるためには、自店の販売実績を分析することから始まります。次に、販売分析の結果や、さらには外部的な情報として景気動向、競合店の状況等を踏まえて販売計画を立てることになります。さらに自店の販売計画目標に向けて、それを達成すべく日々の販売活動、営業活動を展開していくことになります。
- .活力ある組織
活力ある組織であるためには、自店のストアコンセプトを従業員に十分に伝えていくことにより、自店の経営姿勢を理解し、さらに共鳴し、業務に専念してもらう体制をつくることが大切です。また、組織が有効に機能するには、"目的達成のために大いに貢献しようとする従業員のモラルと能力"が必要となり、"組織の中の構成員を一つにするような意志疎通(コミュニケーション)"を欠かすことができません。
- 魅力ある商品・サービス・店舗
専門力とは、どこか光るものをもっていて、優れた価値をお客に提供しています。商品や接客に独自性を出したり、またきめの細かな保証などのサービスに発揮されていたり、店主や従業員が優れた商品知識を打ち出していることなどです。
品揃えにおいて、メーカー、卸の供給サイドからの商品分類による商品陳列の提案型から、お客にとり生活や使用場面をイメージできるような商品分類へと転換を図っていくことも魅力づけの1つです。
- 綿密な資金計画づくり
マーケティング活動―販売活動を実行していくうえで、資金計画、利益計画というものは、販売計画、仕入計画とともに重要なものとなってきます。日々の営業活動の中で、自店の資金計画、つまりは資金繰り計画を立てることが大切で、利益計画、収支計画をきちんと立てていかなければなりません。
- 情報活用を図る
インターネットの普及に伴い、インターネットを活用したインターネット通販と言えるe-ビジネスが増加しています。小売業が、インターネットを通じて消費者に販売するいわゆるB-to-Cという分野に様々な業種が参入してきています。
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(2)商店街のマーケティング推進策 |
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①ショッピングセンターのマーケティングとマネジメント |
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多数の専門店、飲食店などで構成するショッピングセンターでは、統一した的確なマーケティング戦略を持って施設全体を運営し、マネージメントしています。しかし、入居する専門店などが個性と独自のマーチャンダイジングの能力を備えている場合が多く、近年、集客力の高いテナントとしてショッピングセンター側が誘致した店も少なくありません。それらの力をショッピングセンター全体が集客力として評価し、期待している側面もあることから、テナントの商品政策や品揃えなどに対して、ショッピングセンターの運営者が積極的にかかわる例が比較的少なくなりつつあります。その結果、ショッピングセンターの管理運営においては、主にテナントミックスに関する業務とショッピングセンター全体の営業管理、経営管理にとどまり、テナント個別のマーチャンダイジングについてはテナント側に委ねざるをえない形態になりつつあります。 |
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②商店街におけるマーケティングの類型 |
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商店街は、きわめて独立性、自主性の強い個店の集団です。
単独の大型店では、施設全体がマーケティングに基づく統一したマーチャンダイジングや販売促進活動を行っています。しかし、自然発生的に形成された商店街においては、このようなマーケティング活動は非常に困難であるといえます。
このような中で、商店街がマーケティング戦略を展開する方法として、次の3つの類型が考えられます。
タイプ1 |
商店街のマーケティングを優先させ、強制力を持って個店がこれに合わせて実行する型 |
タイプ2 |
商店街のマーケティングと個店のマーケティングを整合させ、緩やかな協調型のマーケティングを行う型 |
タイプ3 |
個店のマーケティングを優先させ、これらを追認、集約して最大公約数的に商店街のマーケティングを行う型 但し、特徴のあまりない商店街においては絞込みと合意形成 |
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③マーケティング推進のための体制、人材と資金 |
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商店街のマーケティング戦略の展開に際しては、商店街の組織と体制が問題となります。
商店街の組織は、経営戦略などの展開のための活動を行っているが例は少なく、相互扶助の水準にとどまっている組合は少なくありません。 また、商店街は、種々の業種・業態があり、チェーン・単独店・支店・本店や企業・生業・副業の様々な経営形態が混在し、経営者の事業観、価値観、人生観を異にする集団であるため、推進体制が問題となります。
このような問題を抱える組織において、マーケティング戦略を推進するためには、リーダーと事業を推進する体制が不可欠です。商店街活動については、積極的な対応を示す商店街が数多くあり、これらはいずれもリーダーの存在が大きいと考えられます。リーダーは、何もしないで現れるものではなく、事業を実施することによって育てられるものです。活発な商店街活動を行っていない商店街ではリーダーは育ちません。
商店街活動においては、一般会計と特別会計に分け、通常賦課金と特別(事業)賦課金として負担を要請しています。これらの賦課金については、益を得る程度に応じてではなく、経済的かつ意識的に、負担が可能な水準に合わせて賦課している例が多くみられます。商店街での本格的なマーケティング活動を推進するに際しては、各種の公的機関からの支援、助成策を活用しながら、事業を行うことにより、得られる益に応じた『受益者負担方式』による費用負担を採用することが望まれます。この場合、当然ながら、商店街のマーケティング活動の実行により、間接、直接に個店での受益が前提となります。
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④マーケティング情報の収集と提供 |
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商店街でマーケティングを展開していくためには、まず、そのマーケットの情報を収集することから始めなければなりません。
消費、経済動向や世の中の動きを把握するとともに、地域の居住者や来街者、顧客の特性の動向を正確に調査し、それらのニーズを分析、把握しなければなりません。これらの情報収集の方法については、統計データの継続的な入手、行政などで行う各種調査データの入手、独自での定期的な商圏、来街者、通行量などの調査の実施、モニター会議や消費者懇談会の開催などがあります。また、カードその他のIT事業を行っている商店街などにおいては、その顧客のデータベースを共有して活用することもできます。
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⑤マーケティングの目標の認識と合意形成 |
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商店街のマーケティングの実践は、「目標・戦略の決定」、「合意の形成」、「活動の実行」の順で展開することになります。
「目標・戦略の決定」については、簡潔、明瞭でよりわかりやすい目標でなければなりません。「合意の形成」に際しては、商店街マーケティングの必要性を説き、商店街マーケティングの認識を高めるとともに、より多くの参加者を集めるため、比較的緩やかな内容とせざるを得ません。しかし、多様化するマーケットニーズへの取り組みに加えて地域間競争への対応が求められる中、商店街の有志商店により、商店街及び個店のマーケティングを連動させた展開も今後の形として考えられます。
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