平成13年度 全振連で行った商店街近代化研究会報告書を要約したものです。
(商店街近代化推進シリーズ47)
 
1.商店街の現状とマーケティング
(1)商店街が置かれている現状
 現在、商店街がおかれている状況はかなり厳しいものがあります。全国の1万8千の商店街の9割が「停滞・衰退」状態にあるという調査結果が出て、すでに10年以上を経過しました。その間、さまざまな努力がなされましたが、事態は好転していません。
  その原因については、大型店の進出、駐車場の不足、後継者難、店揃えの不備などがあげられますが、もっと根本的な問題があるのではないかと考えられます。それは、商店街にとっての顧客である消費者の変化です。商店街がもっと真剣に消費者の動きを捉え、"マーケティング"にもとづく商店街活動が求められています。
 
(2)商店街におけるマーケティング
  ① 「マーケティング」とは

 

 商店街マーケティングの話に入る前に、マーケティングとは何かを明らかにする必要があります。マーケティングとは、「市場(消費者)と企業や組織とのかかわりを考えるための考え方やアプローチ法」であり、「そのためのしかけづくり」です。さらに現代的マーケティングは「市場との語り合い」をテーマとしているため、商店街の場合、"商店街が消費者や顧客とどのように関わるべきか"、"消費者とどう語り合い、響き合う関係を作るか"、について考えるための考え方や手法や仕組みづくりをいいます。
  マーケティングのコンセプトは、単なるニーズ志向や顧客志向を超えて、「社会志向」という発想の段階にまで発展しています。いかにニーズがあったとしても、それが社会的にマイナスとなるようならば、企業は商品やサービスを提供すべきではない、というのが今日的マーケティング・コンセプトなのです。また、そうした考え方をしっかり評価する消費者が増えてきているのも事実です。
  ②「マーケティングを考える

 

商店街が今日的なマーケティングを実践するための方策について整理してみます。
  メーカー等のマーケティングの実践に当たっては、マーケティング戦略を構築しなければなりません。そのための仕組みとして、マーケティング・ミックスという考え方をとります。マーケティング・ミックスは、マーケティングの内容をなす活動、つまりマーケティングの諸手段の組合せのことであって、これをいかに構成するかがマーケティング戦略の中心課題となります。諸手段としてあげられるのは、「製品政策(product)」、「価格政策(price)」、「販売促進政策(promotion)」、「チャネル政策(place)」、の4つの要素です。一般的には、それぞれの頭文字をとって、"マーケティング4P"といい、"マーケティング4P"をいかに組み合わせるかがポイントとなります。
  ③商店街の"マーケティング4P"

 

商店街が"マーケティング4P"を活用して、有効なマーケティングをどのように実践すればいいのかを考えてみます。メーカー等の4Pを商店街としての言葉もしくは発想に読み替えなければなりません。

  1. "製品政策"は「問題発見」から

    例えば、女性が店頭で口紅を購入するのは、単に口紅を欲しいからではなく、「美しく見せたい」もしくは「美しくなりたい」という問題を解決するために口紅を購入するのだ、という考え方です。メーカーは口紅という製品を作りますが、商業者は「美しさ」という価値を売るのであり、店頭において、製品から価値への発想の転換を行わなければなりません。商店街の製品政策は「問題の発見」と消費者の抱える問題を解決する製品をいう「便益の束」の提供がどのくらいできるかにかかっているといえます。

  2. "価格政策"は買い手の論理による

    消費者がどれほどの価値を商品に期待するかの買い手論理の価格決定方式が主流になりつつあります。商店街が商品を販売しているわけではないので、商品の価格決定は個店の方針に依拠せざるをえず、商店街がそれをコントロールすることは不可能です。商店街ができるとすれば、一斉のバーゲンセール、季節割引、といったイベント的な価格政策とならざるをえません。

  3. "販売促進政策"の基本はコミュニケーション

     商店街の販売促進としては、直接に需要を喚起する方法(景品、クーポン、スタンプ、ポイント、プレミアムなど)、消費者教育を目的とする方法(見本・試供品の配布、実演、展示会開催、販売員による説得)、消費者を商店街活動に参加させる方法(コンテスト、ショー、クイズ、抽選・くじ引き)、などがあります。これらはいずれも消費者とコミュニケーションを図る手段となります。

  4. "流通チャネル政策"は地域への貢献

    初めに地域社会があるのであって、地域なくして商店街は存立しえません。自分達が仕事をするために、地域社会に多くを依存しています。商品の調達、人材(社員)の調達、納品・配送のための道路使用、さらには交通渋滞やごみ問題などは商店街が地域にマイナスの貢献をしていることもあります。商店街の流通チャネル政策は、地域社会へのさまざまな貢献であり、貢献というよりも当然の義務と考えることも必要です。
(3) 商店街マーケティングとマネジメント
 商店街がただ単に1ヶ所に集っているという形式的な組織であれば、一体的な理念やコンセプトは必要でないかもしれません。しかし、そこで商人が活動し、さらにはそれを評価する消費者・顧客の存在があることから、生きたマネジメントが必要になります。これからの商店街は、社会性の高い理念やコンセプトを掲げ、マーケティング手法を駆使して、地域社会や地域の消費者に歓迎される商店街となることが求められます。消費者は、そうした動きをしっかりとみており、もしもそうでないとわかったら、黙って商店街から去っていくと思われます。
 
 
2.個店・商店街のマーケティングの必要性
(1)個店マーケティングの必要性
 本当にすぐれている商人は、昔からマーケティングを日常の経営の中で実践してすぐれた経営を行い、その結果、店を繁昌させてきました。例えば、自分の店の商圏はどの程度のひろがりを持っているか、そこにはどんな消費者が住んでいて、その人たちの中から自分の店が顧客としているのはどんな人か、これから顧客としていこうとするのはどんな人か、顧客は自分の店に何を期待しているのか、そのためには品揃え、値づけ、売り方をどんな方向に持っていく必要があるのか、サービスをどうすればよいのか、そして何よりも店としてのあるべき姿はどうなのか。これらのことを意識的に、場合によっては無意識のうちに見事に実践してきています。個店において、以下のものを背景として、マーケティングの必要性は日増しに高まりつつあります。

・低成長期ではあるが経済的豊かさ、心の豊かさが求められている
・生活者ニーズの変化と多様なニーズが生じている
・マスから個へと行動、価値観が変化しつつある
・生活のTPO(時、場所、場合)の多様性への対応が求められている
・マーケットのセグメント(選別)が進んでいる
・すぐれた個店マーケティングの事例が増えた
・すぐれた個店が商店街の活性化にも結びつく
 
(2)商店街マーケティングの必要性
 地域の中で、様々な商業集積がある中で、地域の特性をふまえつつ自分達の商店街の方針に沿って、主張していくことが求められます。また、商店街として、「個」と「集団」のマーケティングとしての一体性と整合性が望まれます。 商店街のマーケティングは、地域の特性をふまえて、他の商店街、商業集積との違いを明らかにしながら展開していくことになります。 但し、商店街のマーケティングが先にある例は少なく、個店の個性やマーケティングが優先する場合が大半で、商店街のマーケティングは個店の最大公約数的な内容にならざるをえません。 商店街のマーケティングは大きく次のように展開します。

・商店街のコンセプトづくり
・客の購買意欲を高める
・集客力を高める
・イベントによる集客
・空き店舗の活用
 
3.個店のマーケティング
(1)個店のマーケティング
 個店のマーケティングには次の事項が必要となります。
  ① 商圏・顧客層等の把握(情報収集)
   まずは顧客の範囲(商圏)、居住者特性、ライフスタイル等のマーケットと競合店や施設を知ることから始まります。但し、これらのマーケットは変化していることから、常に収集しつづけなければなりません。
  ② 個店のコンセプトを明確にする
   店の経営理念にもとづいて、自店のターゲット、取り扱い品、こだわりなどを明確にします。特に、同業他店との違いを打ち出すとともに、来店の動機づけを行います。
  ③魅力ある品揃え
   個店のマーケティングに沿って、マーチャンダイジングという"商品政策"、"商品構成"により、具体的に店の特徴を明らかにし、アピールします。  魅力ある品揃えとは、店主側の一方的な理屈ではなく、顧客ニーズに配慮しながら、主張を添えることが必要です。
  ④サービス、販売促進を強化する
   顧客のニーズをふまえつつ、顧客への各種のサービスを強化します。また、店のより利用を促すため、マーケティングに沿って、個別及び共同の商店街の各種の販売促進活動を強化します。
 
(2)個店の店づくり(店舗改装、レイアウト)
 個店の店舗の基本機能を大きく分けると、導入部分の宣伝訴求機能、売場部分の販売促進機能、後方部分の管理サービス機能の3機能となります。これらについて、マーケティングとの整合を図りながら、バランスよく店舗空間を計画することが店づくりです。
  ① 購買行動と販売行動

 業種、業態により異なるが、顧客の購買時の行動を把握するとともに、これに対応した店側の販売行動が必要であり、これらに配慮した店内のレイアウトが必要となります。

② 店舗計画の原則
 店内の客動線はできるだけ長くし、従業員の動線はできるだけ短くする工夫が必要です。客の流れについては「8の字」型が理想といわれています。その他、手に取れる高さや品選びをしながら移動しやすい道路幅を確保することも必要です。
③ 照明、色彩への配慮
 比較的ローコストで効果的な照明も可能であり、照明や色彩が店の雰囲気、客層を変えてしまう例も少なくありません。
④ バリアフリーへの対応
 通りでの対応とともに店内での対応も忘れてはなりません。入口幅は80cm以上、店内通路幅は120cm以上はとりたいものです。その他、手摺の設置や床面段差の解消が望まれます。