中心市街地の空洞化に対応した街づくり・店づくり


平成8年度 全振連で行った商店街近代化研究会報告書を要約したものです。
(商店街近代化推進シリーズ42

1.流通構造の変化

1)商店数減少と中小零細店の活力低下

 わが国の小売商店数は、昭和57年をピークに、それ以降、減少の一途をたどっています。とくに店舗数が減少しているのは、従業者規模4人以下の小規模零細小売店であり、大規模小売店の店舗数は増加しています。

 商店街に属する小売店の多くが小規模零細であることから、商店数減少の影響を商店街が受けるという事態は避けられません。商店街に空き店舗が増えているという実態はそれを物語る1つの現象といえます。大規模小売店の場合、大店法の改正によって、出店は加速しています。したがって商店数減少は、小規模な独立小売店を中心に構成させる商店街を厳しい状況に追い込む結果となっています。

 中小企業庁が実施する「商店街実態調査」によれば、平成5年調査では「繁栄している」と回答した商店街はわずかに41%しかないことからも、商店数の減少がいかに商店街に大きなマイナスの影響を与えているかがわかります。ちなみに、昭和45年の同調査では39%の商店街が「繁栄している」と答えており、20年間で多くの商店街がかなりの停滞感を実感しているといえます。

2)業態盛衰の明確化

 厳しい状況にあるのは商店街だけではありません。バブル経済の崩壊と棟を一にして、百貨店、スーパー、メーカー系列小売店といった業態が厳しい状況に陥りました。

 一方、成長菜態としては、コンビニエンスストア、ディスカウントストア、通信販売、専門店が挙げられます。これら成長業態に共通する点は、まず第1に消費者ニーズとのマッチ、第2にコンセプトの明快さ、第3に業態を維持する仕組みができていること、第4に情報を重視していること、といった点です。

 第1の点は、現代人のライフスタイルを考えてみれば明確になります。現代人は多忙で、様々なライフスタイルを持ち、評価能力を持っています。また、情報を重視します。こうしたことを明確にとらえた業態が、現代人の支持を得ているのです。

 第2以下の点については業態ごとにみてみましょう。

 ディスカウントストアの場合は、劇的低価格をコンセプトにし、その低価格を実現するために、ローコスト・オペレーションの徹底、取引慣行への挑戦等を続けてきました。

 通信販売の場合は、通信手段を活用した販売方法であることをコンセプトとします。そのコンセプトを実現しながら、顧客データベースの構築・活用という強みを背景に、消費(需要)を出発点とした生産体制・物流体制を確立することで生産から消費までの情報ネットワークというひとつの仕組みを作り上げています。

 専門店の場合は、専門度の強さというところがコンセプトですが、何を専門とするかというところがポイントとなります。衣料品の専門店とか食器の専門店といった切口ではなく、「アウトドア・ライフ」「50年代」といったようなテーマ性を特徴とします。店舗ではそのテーマをイメージさせる商品とスタイルと情報がふんだんに提供されます。また、その実現に向けて新たな仕入れのためのベストソースの発掘、情報提供のあり方、体験のさせ方といった新しい仕組みづくりが進められています。

 成長業態のこうしたコンセプト、仕組み、情報提供への取組みを比べてみれば、現在起こっている業態の盛衰・明暗が明らかになるはずです。

3)新しい参入者の登場

 まったく未知の分野からの小売市場への参入も始まっています。例えばメーカーによるショールームやアンテナショップの展開、物流企業による産地直送販売や通信販売といったものです。また、公的機関であるJRや郵便局も小売市場に参入し始めています。

 商店街にとってはかなり厳しい競合状況におかれることは予想に難くありません。消費者の変化をいちはやくキャッチし、それに対応する仕組みづくりにとりかかることが求められいます。

 

4)生産から消費までのトータル・システムの構築

 小売業と生産段階とが直接に結びつく『戦略的製販同盟』の進展(ジャスコと花王のケース等)など、消費者ニーズの対応をスピーディに行い、無駄の排除によって効率性を向上させるための仕組みづくり、さらには、小売価格の低下を目指す試みがなされています。

 こういった挑戦を、商店街としても商店街らしい方法で実施していかないと、消費者との接点は次第に少なくなり、また、消費者との関係性は稀薄になり、結果としてさらなる空き店舗の増加が避けられなくなる可能性は大きいといえます。発想の転換と生産から消費までをトータルで考えた仕組みづくり、といった高度な、しかも必要不可欠なテーマに取り組む時代がやってきたのです。

 しかし、決して大規模小売業や大規模ネットワークを持つフランチャイズチェーンのようなものと同じ土俵に立つという発想になる必要はありません。商店街にもともとあった商店街らしい消費者との顔のみえる関係づくり、商店街だからこそできる商品調達、商店街を地元密着の街にするという発想で構造転換の時代を乗り切ることです。

 

2.消費者行動の変化

1)消費パターンの変化

 E 所得と消費の動き

 全国勤労者世帯の1世帯当たり年間実収入は平成6年の6,806千円から平成7年は6850千円へと44千円の増加をみました。増加率で見ると僅か0.6%です。しかし消費者物価は0.3%下がったために、物価変動を除去した実質値では0.9%の増加となりました。手取り所得である可処分所得は5,786千円と前年に比べて僅か0.2%の増(実質で0.5%の増)となり、“所得低成長時代”に入っています。

 可処分所得の低い伸びが原因となって、商店街の売り上げに結びつく消費支出も不振を極めています。平成7年は前年に比べてマイナス1.0%(実質で−0.7%)となっています。

 A 消費構造の変化

 消費の中味をみると、平成7年には食料費は消費支出全体の23.7%にまで低下し、家具、家事用品も3.8%に低下しています。被服及び履物も6.1%と平成2年に比べて1.3ポイントもの大幅な低下となっています。これらに該当する業種の小売業にとっては、消費全体からのパイの分け前が著しく少なくなったといえるでしょう。

2)買物行動の変化

 @ 楽しさを求める

 買物には、それ自体を楽しんだり、楽しみを兼ねてするものがあります。商店街は日々の買物客を品揃えの魅力やコミュニケーション、魅力的なイベント等で楽しませることに心がける必要があります。楽しみのない商店街にお客は釆てくれないと思うべきです。

 A 手軽さを求める

 仕方なしにする買物もあります。消費者はそうした買物はできるだけ手軽に済ませたいと思っています。ワンストップショッピングのできるスーパーや大型店に男物客が行くのは当然です。

 こうした買物には、無店舗販売を利用する傾向も、今後益々強まるでしょう。電話1本、はがき1枚で届けてくれるといった買物形態を生活者は動機や目的に応じて使い分けるようになるでしょう。

3)消費者動向と買物行動の展望

 生活者の消費に関するこれからの最も重要な傾向として次のようなことが指摘できます。

  @ 価格に対する厳しい見方

 消費者のモノの価格に対する見方は益々厳しくなると思われます。それも単に安いだけでなく、品質と価格を秤にかけて、本当の安さを追求するようになるでしょう。商業者にとって大変厳しくなるといえます。

 A 手軽さを求める

 多忙な現代人にとって、生活の各領域において手軽さ、簡便さを求める傾向は、今後益々強くなるでしょう。食生活においては弁当・惣菜などのいわゆる“中食”領域が伸びることが予想されます。

 B 生活の質への欲求

 クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の豊かさを求める傾向も強まるでしょう。生活文化、教養、創造的なレジャーや生涯学習への関心の高まり、生活空間を趣味の良い家具や什器で装うことなどです。中小小売店もこうした生活者のニーズに対応できれば大型店にない持ち味を発揮することができるでしょう。


3.都市構造の変化

1)商店街を取り巻く状況

1990年代は、バブルの崩壊と世界経済の影響で日本全体が揺れ動いた時期です。あらゆる産業部門でリストラが進行しました。商業資本も経営改善が進められ、特に大型の商業資本の生き残り策は、商店街など無視したように展開していきました。その結果が、ディスカウントショップ、コンビニエンスストア、テーマパーク、大型都市間ショッピングセンターなゼの新しい展開となりました。

 全ての専門分野にディスカウントショップが登場し、その立地はコストの安い地区をねらい、商店街とは無関係に出店しました。特に紳士服などは、デパートから紳士服売場をなくすような勢いでした。また、電気製品なども、オープン価格といって、希望小売価格の設定をやめる製品がでてきました。

 コンビニエンスストアはPOSシステムの活用と、商品輸送のコンピュータ化などによる効率化で、回転の良い商品だけを置く効率の良い販売を可能にし、市街地のいたるところに立地してきました。商店街はこれらの商品と競合することが多く、大きな打撃を受けました。また、これらの店舗は、24時間やそれに近い形で店舗を開けていて、商店街の店舗が早く閉まってしまうのに比して多くの消費者を獲得しました。時間給の従業者をうまく使った経営は、これらの店舗の一層の効率化を促進しました。しかし、立地が悪かったり競争に敗れたりしたときは、投下資本が少ないためすぐに閉店してしまいます。たまたま商店街の中に出店しても、商店街の成長とは無関係の動きです。

 さらに商業資本は、娯楽施設や飲食施設などとの複合商業施設を志向し、いろいろなパターンの商業施設を生み出しました。映画館と市場形式の店舗群、遊園地と飲食と店舗群など、テーマパークはその中心が店舗群に置かれていませんが、その

商品販売類が大型店と遜色ない施設も多くあります。

 さらに、郊外部の店舗立地というよりも、都市と都市の間の何もないところに、大型のショッピングセンターを作る例も増えてきました。まさに両方の都市をその商圏にしようという試みです。

 こうした動きの中で、商店街の存在感は薄れ、特に若者の商店街離れが著しく進行しました。

2)今後の都市の変化

 都市の変化は、商店街を取り巻く問題を一層深刻化していくようです。

 まず第一に、都市中心部の人口の高齢化です。核家族化によって若い世代が郊外に出て行ったため、その親の世代が中心部に残りました。そのため、中心部の消費者は高齢化することとなり、老後の不安からその消費意欲は小さくなります。

 次いで、コンビニエンスストアの浸透です。日常品を中心に販売する店舗が均等に市街地の中に立地しており、商店街での日常品の買い物がコンビニエンスストアに相当奪われています。

 次いで、固定資産税の評価です。中心商店街は、かつては都市の繁華街であったため、固定資産税評価は高く設定されています。しかし、商業の朱件が変化するにつれて、その土地の生産性が激減したにもかかわらず、評価額はそれほど落ちていないため、商業者は相対的に高い税金を払っています。

 また、以前は商店街の核店舗であった多くの中型店が、借地契約期間がきて、堅牢建物を残したまま、契約の更新をしないで出ていっています。堅牢建物は、廃屋のまま放置され、商店街の雰囲気が極めて悪くなっています。

 これらの中心商店街の苦しみの原因をみると、核家族化や自動車社会の進展が基本的なものですが、それ以上に、大型店などの性急な、そしてある意味では自らを苦しめる動きが都市構造の変化を促したためといえます。

 戦後の日本の商業資本は未熟な段階にありましたが、スーパー商法を皮切りに、大きく商業資本が変質してきたことによる影響も無視できません。大型商業資本の、ただひたすら業態の変化のみを追及する性急な対応は、都市文化や地域生活と商業との密度の高い関係をまったく無視したものです。商業が都市文化と不可欠であるということをわからずに、都市を破壊したといえます。

 都市の魅力が、中心部の活力によって形成されるという認識を持つならば、中心商店街のこのような構造的な状況は、もっと、都市全体の問題として対処しなければなりません。その意味で、市民生活の質の向上を総合的に考えるならば、もっと、独立店舗の役割や商店街の役割を明確に認識して、都市の再構築に向けて努力する必要があります。

4.中心商店街における空き店舗の現状と活用例

1)空き店舗の現状

 商店街の空洞化は、最も端的には空き店舗の増大、商店の歯抜け現象となって現れます。

 日本商工合議所が平成611月に行った調査によると、空き店舗数は1商店街当たり全国平均では4.9店となっています。商店街の性格別にみてみると、広域型商店街で1商店街当たり3.9店と平均を大きく下回りますが、地域型では5.1店とわずかながら平均を上回っています。

 また、総店舗に対する空き店舗の比率は1商店街当たり全国平均で8.8%となっています。商店街の性格別にみると、広域型では5.9%と平均をかなり下回るのに対して、地域型商店街では9.2%と僅かながら全国平均を上回っています。

 このように、地域型においては、空き店舗問題はより大きな問題となっています。

2)空き店舗活用のモデル例

 かつての商店街には新陳代謝があり、空き店舗が発生しても、すぐに次の借り手や買い手がみつかり、空き店舗自体が問題化するということはあまりありませんでした。

 しかし、現在では空き店舗が何年間もそのままになり、商店街が歯抜け状態になるという現象が至る所にみられるようになっています。

 こうした空き店舗を商工合議所や商店街、その有志などが何とかしようという動きが広まっています。以下、全国で行われたモデル的な事例をみてみましょう。

 @ 個別空き店舗の−時的利用

 空き店舗を利用して、一時的に催事場、発表会譲、ギャラリーなどの人の集まる施設として利用すれば、寂れた場所が逆ににぎやかな場所となって商店街にプラスになります。

a.新潟市古町通六番町商店街(振)

 6店ある空き店舗のうち1店舗を振興組合が家主さんの協力で3年間、安い家賃で借り受け、市民が710日間を安価で自由に利用できる『自由空間』として開放しました。アート展覧会、手作り作品の即売展、短期間の商売等様々な形で利用され、その結果、他の空き店舗に入る人も現れ、『自由空間』自体も次々と借り手が見つかるなどの大きな効果があらわれました。

b.春日部市春日部一の割商店会

 商店会が空き店舗を短期的に借り受け、『スリム館』と名付けたリサイクルショップを運営しました。その結果、人の出入りが多くなり、6店あった空き店舗のうち5店が埋まるという効果を上げています。

 A 個別空き店舗の永続的活用

 一方、空き店舗において、仮の利用ではなく一般の営業者等を誘導することにより、永続的に活用する例もあります。

a.室蘭市輪西商店街(振)

 平成6年に振興組合の有志25人が、閉店した商店街で唯一の総合衣料店を借り受け、商店街にはなくてはならない業種ということで、3カ月後に従来通りの総合衣料店として再開しました。

b.富士吉田市・中央通り連合商店会

13ある空き店舗のうち4店舗について家賃半額補助のチャレンジャー募集を行いました。多数あった申込書のうち4人のチャレンジャーが入居しました。こうした努力の結果、13あった空き店舗のうち7店が永続的なテナントで埋まりました。

C.富山中央通り商店街振興組合

 平成6年から空き店舗を借り上げて改装し、『プラスさんぼ−3』と名づけた情報センターとして運営しています。映像、音声、文字情報を組み合わせたニューメディアを使って、買物情報、観光情報を来街者に提供しています。

  B 商店街または商店集団による大規模事業

 何店もの空き店舗が発生した場合、それをきっかけに思い切った大規模事業を共同で行うこともやり方次第では可能です。

a.店舗の集約化

 岡山県落合町の商店街は街道ぞいの散在型商店街ですが、その中ほどに協同組合方式で『落合サンプラザショッピングセンター』をつくりました。すぐれた業績を挙げ、平成4年には駐車場部分に延べ面積で従来の建物の3倍もの新館をつくって移転しました。

b.商店街の全面移転

 この例は極めて少ないが、空き店舗が多く発生し、現在の商店街では交通その他の条件面で再活性化が無理な時は、思い切って商店街を交通の便利な場所に全面移転するという方法もあります。宮崎県新富町の新富町商業協同組合が役所前の国道バイパスと旧国道間の250mに共同店舗を核とした商店街を形成し、移転した例はこうした試みの1つです。

 C 環境整備事業を伴う長期的大規模事業

 空き店舗が多数発生したことをきっかけに、単に共同店舗をつくるだけでなく、周辺の環境整備や公的施設をつくるなど、社会基盤整備や公的施設をつくるなど、社会基盤整備を伴うまちづくりを行うことも可能です。今後は、商店街活性化をよいまちづくりと結びつけるためにこうした方向を押し進めることが望ましいと思われます。

a.沼田市下之町商店街

沼田市の中心商店街はJR沼田駅から徒歩十数分の丘の上にあります。この商店街の目抜きの場所であった所を再開発して大型店を誘致して、権利者もその中に入りました。店舗面積約13,000uの『グリーンベル21』がそれです。権利者50名弱を調整して2年半というスピードで平成4年にオープンしました。大型店をつくる前に、道路を拡幅し、商店街を近代化することもしています。大型店の隣は群馬県下でも有数の立派な市立図書館も再開

発の一環として建設されました。

b.西都市妻駅西商店街

建設省の土地区画整理事業、再開発事業、通産省の商店街近代化事業、店舗共同化事業、労働省の「働く婦人の家」、自治省の起債事業など国のあらゆる補助、支援事業を巧みに取り入れて、老朽化した商店街に大型店を誘致し、文化・コミュニティ施設を導入し、近代的な明るい商店街づくりを行ないました。

  

5.空洞化に対応した街づくり

 都市の中心市街地の空洞化の要因は、都市構造の変化によるところが大きいといえます。具体的には、中心市街地において、「定住人口の減少と高齢化の進行(地域購買力の低下)」、「車社会の進展と都市基盤施設整備の遅れ(交通条件の悪化)」、「集客施設の分散化と都市機能の低下(昼間人口の減少)」、「商業投資の減少と商業機能の低下(商業集積及び魅力の低下)」の4点があげられます。

 これらに対処するため、商業環境面では、「住環境の整備や都市型住宅などの誘致による定住人口の増加」、「道路、駐車場などの都市基盤施設整備による車社会への対応」、「公共、民間の都市施設などの都市機能の集積による昼間人口の増加」の対応が求められます。また、商業機能面では、「新規の進出、既存店の改修などの

商業投資の誘導による商業集積の魅力向上」が課題となります。

 空洞化が進む中心市街地での街づくりにおいては、単なる商機能の向上や商環境の修復だけでは効力が期待できないことも少なくなく、このような、都市そのものの構造改善と合わせた街づくりが求められるといえるでしょう。

 第一に、商店街においては、街が持つ機能を再認識するとともに、空洞化に対応した新しい観点からの街づくりが必要となります。 空洞化に対応した街づくりの基本の一つは、地域の特性や資産を地域ぐるみで見直すことです。地域住民と連携を図りながら、また、地域の産業活動と対応しながら、特色ある魅力の創生を図らなければなりません。

 第二に、商業集積地内における大型店の役割の見直しです。大型店の役割は、従来の利便性主体の大型店だけではありません。都心部においては、観光客や交流人口対応を含み、郊外では立地が困難な地域ブランドなどを持つ核店舗に、商業集積の主動的な役割を担わせることを考えるべきです。

 商店街における地域性の訴求については、第三の点として指摘できます。全国共通の画一的な街づくりではなく、周辺環境や地域特性と商店街を調和させた街づくりは、より空洞化が進む都心部において求められます。

 第四の点は、アメニティ(快適性)と街並み景観の確保です。商店街を構成する通り全体や、建物ファサード、サインなどの視界に訴えるデザイン化を進め、快適性の水準を向上させなければなりません。

 第五は、街と商店街との共存です。都市における商業活動は、市民が生活する上で必要不可欠な要素であり、都市を計画する上でも重要な要因です。“官”と“民”の役割分担を明確にしながら、街(都市)と商店街との共存を進める必要があります。

6.空洞化に対応した店づくり

 商店街の中で、空洞化に対応した店づくりを行うためには、地域住民の生活場面に対して、より一層の役割意識を持ち、「商い」のあり方を見直すことが求められています。

 まず、第一に指摘できるのは、従来はお客との親近性だけに依存した商いであったことです。今後は、地域の需要に応え、独自の手作り商品や“温もり”のある売り方の提案によって、店の主張と客の話題になる店にしていくことが望まれます。このことにより、中小小売店の商圏が確保されます。

 次に、個店から発信される人の温かさを通しての商いのつながりが求められます。ものあまり、店あまりの時代になると、生活者の買物の目的が達成されるとともに、人の温もりを求める時間が重要な要素となり、店選びの基準の一つとなります。次に必要なのは、小売店の個性です。大型店にある合理的、目的性に裏付けられた商いの理論だけではなく、その街の特性を知り尽くした店主が、客と生計を同じくする視点に立って、店独自の個性の下に、自己主張していくことが求められます。

 最後に、中高年層の小売商店経営への参加です。高齢化が進む中で、地域の中高齢層に生きがいを提供するとともに、就労の機会を分け合うことにより、人生の達人の知恵を付加して地域生活者に商品やサービスを提供できるようになります。

 このように、空洞化に対応した店づくりは様々な視点からの対応が求められます。1店の元気のある店の出現により他の店に波及し、街全体の活性化につながる例もあり、魅力ある個店づくりが大いに期待されます。

7.街づくり、店づ<りに向けての課題

1)空洞化に対する商店街の基本的な視点

 商店街は、それぞれが立地する地域の“くらしの広場”として、地域と密着してその役割を担っています。商店街が消滅することは地域や地域住民にとって大きな損失であり、避けなければなりません。しかし、商店街の地域における存立基盤は損なわれつつあり、立地面で苦境に立たされています。

 厳しい環境の中で、個店の活動の強化や共同の販売促進事業などの共同経済事業、また街路灯やカラー舗装などの環境整備事業等を行うことも時には商店街の活性化に有効な策となりますが、立地条件の悪化や商店街機能の低下などの基本的かつ構造的問題に対しては、対症療法的な策に過ぎないことも多くなっています。

 このような中で、商店街を抜本的に見直し、商店街の存立基盤を整備し、商業機能を強化、充実させることが急務で、その基本的な対応方策としては、次の3つがあげられます。

その1『移転(いてん)』

商店街の立地条件の変化に合わせて、人口が多く、事での利用がしやすい郊外部や幹線道路沿いに個々もしくは共同で移転し出店する策。

 中小都市の場合には、歴史的かつ文化的な資産を持つ中心市街地が空洞化し、都市そのものの活力と魅力の低下が懸念されます。

その2 『改造(かいぞう)』

 商店街の立地条件の変化に対応し、現在の商店街において道路や駐車場の整備などの交通条件の改善、夜間人口の増加、各種施設の誘致、さらには商業施設の再編強化を目標とした街の改造を行い、悪化する立地条件を改善する策。

 都市の資産を活用でき、都市のあり方からして望ましい策ですが、行政と商業者の一致団結した協調体制が不可欠となります。

その3 『修復(しゅうふく)』

 販売促進活動等の共同経済活動や商店街の環境整備事業により既存商店街の活性化を図る策。

 事業実施は比較的簡単ですが、構造的な問題を抱える場合は抜本的解決にならない場合もあります。

 『改造』などの1過程の対応としては有効であると考えられます。

 この様な基本方向を探りながら、個店、商店街組織、行政が役割分担を図り協同しながら、空洞化に対応した街づくり、店づくりを進めていく必要があります。

2)空洞化に向けての街づくりの課題

 空洞化に向けての重要な課題は、『交流人口対応』、『高齢者対応』、『多様化対応』と考えられます。

 『交流人口対応』については、商店街内または近接して立地する都市機能と連携を強化し、一体化を図ることにより実現します。多目的の人が集まり、種々の行動をすることは本来の街及び商店街の姿です。但し、交流人口に依存するだけではなく、商業面でも、集客力は欲しいものです。そのためには、店及び街において、情報の発信力を備えることが求められます。話題が豊富で、快適な歩行者空間、個性あるまちなみ、主張ある個店などが期待されます。

 『高齢者対応』については、安全性、利便性、滞在性の充足です。街、店において、高齢者にとって安全で優しい空間づくりが求められます。また、お年寄りにとって便利に買物ができることと合わせて、人や街との交流ができ、街で時間消費ができる空間と基盤施設の整備が期待されます。

 『多様化対応』については、多様化する生活様式とニーズへの対応です。商業機能については、店の個性化を進めるとともに、その集合体の商店街としての提供商品、サービスにおいて多様性を確保することです。また、商業空間については、メインストリートの「おもて」の空間とともに、路地、横丁などのヒューマンスケールを持つ界隈性の高い「うら」の空間などの多様性が求められます。

 

3)空洞化に向けての店づくりの課題

 街づくりと同様に、『交流人口対応』、『高齢者対応』、『多様化対応』が望まれます。いずれもが郊外店や大型店との棲み分けのためのものであり、これらの3つの対応は、“店舗(環境)づくり”、“商品構成”、“サービス提供”の各側面にも要請されます。

 『交流人口対応』は、利便性とともに主張があり、利用者にとっては、利用の目的性を持つ店づくりです。また、それぞれの商店街が立地する地域性を強く訴求する店づくりも期待されます。

 『高齢者対応』は、やさしさと親しさによる店づくりです。

 店舗設備にバリアフリー対策を講じるとともに、「温もり」のあるサービスの提供が望まれます。

 『多様化対応』は、個性と主張ある店づくりです。業種店から業態店への転換を図り、高度化、多様化する地域消費者のニーズに対応していかなければなりません。また、地域住民の生活パターンに対して役割意識を持ち、個店の使命を認識する必要があります。